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流鏑馬次第
一其後〈○射手装束終後〉弓お執て、馬場へ打よせて、矢おぬきはげいし、左にて手綱おとりて、右にて捨むちの扇おぬきて、笠の端おつくろひて、さて右の手にて手綱お取て、弓お取なおし、馬場すえお見帰て、馬おばかへすべし、是は式の事也、笠のはおもつくろはず、矢おもかねてはげて打寄て、やがてかへすも有べし、或は射手の老若、又馬なざの矢ぐるひする時の自然の儀也、
一射る時、もしは弓お打入て、矢お落す事もあり、然ばやがてそこにて矢おぬきてはぐべし、引時おとしたらば弓計おまはして、捨むちの時、矢おぬきまふけてはぐべし、
一矢お出してさばく時、弓と矢お打ちがゆることもあり、然お常よりもはやく矢おはげて、少さげて、目の下にて、弓の上より矢お取おとしてはげなおすべし、但的の間ちかくば、本こすとも、ただ其まゝにて、弓手の人さしゆびおそへて射べし、同えびらの矢もみな落、又は弓の弦などきるる事も有べし其時は弓の本おそらして射るやうにて、的にても串にても、あ訖るやうにはからふべし、
一流鍋馬可仕由仰出されば、三的お先可射也、〈○中略〉
一流鏑馬其外矢つぎにいそぐ事お、さばくといへり、
当流の流鏑馬は、矢さす事、右のかどへ出して、弓につがふ時は、笠の前にてつがふ也、もし打違て、つがひたらば、弓に人さしゆびおそへて、そのま、引て射べし、ぐきなか、かぶら本こいふは、矢出すやう也、鏑のきはよちつがふは鑰本也、本はぎのきはようつがふはぐきなかなり、〈○中略〉
永享八年八月廿八日 前備前守持長在判