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国号考
葦原中国〈水穂国(みづほのくに)お附いふ◯中略〉 これお豊葦原之水穂国(○○○○○○○)ともいへり、豊は美称にて、大八島の大(おほ)のたぐひなり、そは此の国号へすべて係れり、葦のみにかけて雲にはあらず、葦原は上件にいへるが如し、水の字は借字にて、物のうるはしきおほむる言にて、これは穂おほめたるなり、書紀に瑞字お書れたるはあたらず、彼字につきて、祥瑞などの意とな思ひまがへそ、穂は稲穂おいへり、葦のにはあらず、凡て稲穂おたヾに穂とのみいへるは、万葉に秋穂などもいひ、書紀に天照大神又勅曰、以吾高天原所御斎庭之穂、亦当御於吾児とあるがごとし、さて皇国は万の事も物も、異国にはまされる中にも、稲は殊に万の国に比ひなく、はるかにすぐれて、いと美好(めでた)きこと、神代よりかくのごとく深き由緒のありて、今に至るまで、まことに水穂国の名に負へるたふとさ、いふもさらなるお、天の下の諸人、かヽるめでたき稲おしも、朝夕に給(たう)べながら、皇神の御恵おおろそかに思ひなすべきわざかは、