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神皇正統記
神代
大日本(おほやまと)は〈◯中略〉耶麻止といふ、これは大八洲の中津国の名なり、第八にあたるたび天御虚豊秋津根別といふ神お生給ひし、是お大日本豊秋津洲と名づく、今は四十八箇国にわかてり、中州たりし上に、神武天皇東征より代々の皇都なり、よつてその名おとりて、余の七州おもすべて耶麻土といふなるべし、〈◯中略〉耶麻土といへることは、山跡(やまと)といふなり、むかし天地わかれて泥(かび)のうるほひいまだ乾かず、山おのみ往来して、その跡おほかりければ山跡といふ、あるひは古語に居住お止(と)といふ、山に居住せしによりて、山止なりともいへり、大日本(やまと)とも大倭(やまと)とも書ことは、此国漢字伝て後、国の名おかくに、字おば大日本と定めて、しかも耶麻土と読せたるなり、大日霊の御国なれば、その義おもとれるか、また日の出るところにちかければ然いへるか、義はかはれど、字のまヽに日のもとヽは読ず、耶麻土と訓ぜり、我国の漢字お訓ずることおほくかくのごとし、おのづから日のもとなどいへるは、文字によれるなり、国の名とせるにあらず、また古へより大日本とも若は大の字お加へず、日本とも書り、州(くに)の名か、大日本(おほやまと)豊秋津といふ、抑徳、孝霊、孝元等の御諡、皆大日本の字あり、垂仁天皇の御女大日本姫といふ、これ皆大の字あり、〈◯中略〉その後漢土より字書お伝ける時、倭といひて此国の名に用ひたるお、即領納してまたこの字お耶麻土と訓じて、日本のごとくに大お加へても、又除きても同じ訓に通用しけり〈◯下略〉