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宇治拾遺物語

今はむかし、せいとくひじりといふ聖ありけるが、〈◯中略〉けちえんのために物まいらせてみんとてよばせ給ひければ、いみじげなる聖あゆみまいる、〈◯中略〉さて出て行ほどに、四条の北なる小路にえどおまる、此しりにぐしたるものしちらしたれば、隻墨のやうにくろきえどお、ひまもなくはる〴〵としちらしたれば、げすなどもきたながりて、その小路お糞の小路とつけたりけるお、帝聞せ給て、その四条の南おば何といふといはせ給ければ、綾の小路となん申と申ければ、さらばこれおば錦の小路といへかし、あまりきたなきなかな、と仰られけるよりしてぞ、錦の小路とはいひける、