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豊鑑
一長浜真砂
明る天正二年の春、小谷山は北にさかひ、雪いとふかく、さえまさる空のくるしみあり、三里余のいぬいにあたり、今浜とて古き城所あり、海にそひて雪浅く、舟の往来も便ありて、今信長の御座安土山へも程遠からねば、かふり仕るに煩なし、此所にすまむとて、堀おふかくし石ぐらお打まはし、とのつくりしてうつり給ひぬ、今浜のなお改めて長浜となん、 君が代も我よもともに長浜の真砂の数のつきやらぬまで、たれ人のよみしといふことも忘れにけり、