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東雅
三地輿
国くに 義不詳、古語にはくむとも、くもとも、またくともいひけり、皆其語の転ぜしにて、上世には天(あめ)に対しいふには、必ずくにおもて称せし事、たとへば漢に天地と雲ひしが如くにぞありける、〈前にしるせし地の条に詳なり〉 旧事古事等の記に、陰陽二神、国土お生成さむ事お相議りたまひし事おしるされ、国土の字読て、くにつちといひしお、日本紀には国土の字お改めて、州国の字お用ひられ、読てくにつちといふは旧事古事等の記に同じ、さらば国(くに)とは猶土(つち)といふ義の如くなりと見えたり、又国と雲ひしは分界の義ありとも見えたり、〈前に註せし事の如く、古語に分界の事おくまりといひけり、くにといひ、くむといひ、くもといふが如きは、くまりといふ詞の転じたるなり、〉たとへば旧事古事等の記に、伊予二名島といふ、此島は、身一而有面四、毎面有名としるされて、伊予国、讃岐国、阿波国、土佐国等の名お分ちしるされ、又筑紫洲、亦謂身一而面四、毎面有名としるされて、筑紫国、豊国、肥国、日向国等の名お分ちしるされしが如き是也、さらば天(あめ)といひ、国(くに)といひしも、一島の内にして、国相分れしも、皆是分界の義あるに似たり、〈或説に、国おくにといふは、郡の字の音の転ぜし也といふなり、我国ひらけ始りし時に、国常立、国狭土、豊国主等の神おはしませしと見えたり、それらの時に、郡の字の音転じて、くにといふ詞の如き出来りたらむとも思はれず、凡国郡の名義は別に記せし者あれば、こゝには注せず、〉