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年々随筆

又某陽といふ事は、いつの頃よりいひそめけむ、二百年ばかりの書にはみゆるお、猶ふるくも有つらんかし、ふとはえおもひいでず、これはいと〳〵すぢなき事なり、さるはから国に、某陰某陽といふ所の多かるに、ならひてのわざなめれど、かの陰陽は、南北のかへもじにて、山にそひ水にそひたる地の、その山水の南につきてよぶ事にこそあれ、皇国の人の伊勢お勢陽、尾張お尾陽といふたぐひにはあらず、洛陽華陽などきこゆるも、洛華は、山水のぞかし、益州お益陽、荊州お荊陽といへる事はあらじ物おや、〈◯下略〉