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続古事談
二臣節
六波羅の太政入道、福原の京たてヽみなわたりいて後、ことの外にほどへて、古京と新京といづれかまされると雲さだめおせんとて、古京にのこり居たる、さもある人どもみなよびくだしけるに、人みな入道の心おおそれて、思ばかりもいひひらかざりけり、長方卿ひとりすこしも所おおかず、この京おそしりてことばもおすまず散々に雲けり、〈◯中略〉さてもとの京のよきやうお雲てついにその日の事、彼人のさだめによりて、古京へかへるべき儀になりにけり、後に其座にありける上達部の長方卿にあひて、さてもあさましかりし事かな、さばかりの悪人のいみじと思てたてたる京お、さほどにはいかにいはれしぞ、いひおもむけて帰京の儀あればこそあれ、いふかひなくはらたちなば、いかヾし給はんと雲ければ、此事我思にはさる儀なり、入道の心にかなはむとてこそ、さは雲しか、〈◯中略〉かの京ことのほかにいつきてのち、両京のさだめおおこなひしかば、はやこの事くやしうなりにけりといふ事おしりにき、〈◯中略〉梅小路中納言の両京のさだめとて、其時の人の口にありけり、