[p.0191][p.0192]
古今著聞集
三政道忠臣
治承四年六月二日、福原にみやこ遷有けるに、同十三日、帥の大納言隆季卿、新都にて夢にみ侍りけるは、大なる屋のすきたるうちに、我いたるひさしのかたに女房あり、ついがきのとに、頻になくこえ有、あやしみて問に、女房のいふやう、これこそみやこうつりよ、太神宮のうけさせ給はぬ事にて候ぞといひけり、すなはち驚ぬ、又ねたりける夢に、同じやうにみてけり、おそれおのヽきて、次日の朝院に参じて、前大納言邦綱、別当時忠卿などにかたりてけり、太政入道〈◯平清盛〉つたへきかれたれども、いと承引なかりけり、さるほどに同人の夢に、還御ありと、邦綱卿長絹の狩衣きて、新院の御ともにさぶらふ、頭亮重衡朝臣よろひおきて御供に候とみてさめぬ、去ながら一日の夢もちいられねば、申出されざりけり、十一月廿六日、平の京に還御有ければ、かの夢にはよらざりけり、山僧のうたへ、又東国のみだれなどのゆえとぞ聞え侍ける、