[p.0198]
織錦舎随筆

東の都(○○○)といふ詞 此江戸おさして東都と文字に書るは、都会都邑などいふ字義によりて、博士の輩の書そめたる事にて、二百年ばかりこなた書なれたり、扠これお大和ことの葉に、あづまのみやこといふ事は、県居の翁の文にはじめてかヽれたり、おのれ是おおだしからずおもひて、むかし翁にとひしかば、げにもみやことは、宮所の義なれば、みさとの外おさしていはんはいかヾなれど、今は世の上中下の人おしなべて、東都としも文字に書なれたれば、殊更に我より改むべき事とも覚えず、かかる名目の類は世に従ふ事も有習ひなれば、暫世に書なれたる文字お、訓のまヽによみてあらんもとがなかるべし、文おあやなす上には、江戸とのみいひては、よからぬいきほひもありといはれき、これいとうきたる事のやうなれど、詞お転じ用たるには、昔よりかヽる例なきにしもあらず、〈◯下略〉