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人国記
山城国 山城之国之風俗は、男女ともに其言葉自然と清濁分り善くて、譬ば流水之滞ふる事無ふして、いさぎよきが如し、世俗に其国風は其水お以知ると雲事誠なる哉、城州は其水潔ふして万色お染むるに、其色余国にはるい違へる事、従古至于今如斯、人之膚之滑成事、亦如斯、女之姿音声之尋常なる事ならぶ国なし、然ども武士之風俗不好事、中々不及子細也、其所以考るに、王城之地にして、常に管絃之楽お玩ぶ事お見馴れ、或は商売之人等は、遠国波島までも偽お以て実とする習なれば、殊に王城の地如斯し、されば常に実お忘れて虚お談ずるお以て、世お渡るお本とす、たま〳〵実儀の人有といへども、其邪に推かくされ、或は其実お隠して、其風儀勤る之類有と見へたり、如斯之武士千人に一人なれども、是人も後は如形之悪き形儀に成なり、然れば総て此国の風俗実お用勤る人すくなき故不知義理也、不知義理が故に、勇億之儀お沙汰すれども、余所の事に心得る故也、此気質お不離也、自然に好き人有は口伝、