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玉勝間

和泉の和字の事 国名のいづみお和泉とかく和の字は、いかなる故おもて添られたるにか、としごろいぶかしかりつるお、つら〳〵思へば、まづいづみといふは、和泉郡ありて、上泉下泉てふ郷もあれば、そこより出たる国の名なることは論なし、かくてその郷の内、府中村といふに、今も和泉の井とて、いとめでたき清水ありて、そこに泉井上神社、和泉神社なども有て、式にも見ゆ、然るに並河氏がかける和泉志お見れば、此和泉井お挙て、其水清且甘と記せるおもて思へば、此清水、上つ代よりいと清くて、甘かりし故に、にぎいづみと号て和泉(にぎいづみ)と書たりしお、其里人などは、たヾ泉とのみいひならへるがひろごりて、名高き水なれば、京人なども、泉とのみいひあへりしまヽにて、郡の名にも国の名にもなれるお、すべて国郡などの名、二字にかく事なる故に、文字にはかならず本の名のごとく、和泉とは書なるべし、やまとの国も、語には常には、たヾやまとヽのみいふお、もじには必大の字おそへて、大和とかくと同じたぐひなり、されば和泉の和の字は、もとにぎ泉といひけんゆえとぞ思はるヽ