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勢陽雑記

一凡伊勢の国は山お西にし、海お東になせり、この故に大体西南の風には船かヽり快く、東北の風には不快なり、国の図(なり)、南北二十余里、東西六七里、或は十里、十五里、其中南の方は、東西広し、西の方峯筋お国境とせし故、海迄の川の大小お以て、国境の遠近おはかるべし、偖山につづきて、美濃、近江、伊賀、大和、紀伊、志摩六け国に隣おなし、海より向ひは、尾張、三河まのあたり近うして、七八九里余の渡海なり、京都への行程二十余里、東海南海の両道は舟路のたよりよし、此故に商売運送の廻船、いづれの湊にもたえまなく、出入しけるほどに、他国の名物重宝求るにたよりあり、元来魚類海藻塩油炭薪材木に至るまで、当国の土産にしてとぼしからず、