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古事記伝
二十一
尾張連〈◯中略〉此氏の本居は、大和国葛城なり、〈◯中略〉書紀神武巻に、高尾張邑、或本雲葛城邑也、また高尾張邑雲々、因改号其邑曰葛城とあるは、高尾張と雲は、葛城の本名と聞ゆれば、国名の尾張は、此高尾張より出て、其は此氏人の葛城より出て、彼国に下住居し故に、其本居の名お取て国名とせるかと思へども、然には非じ、かの神武巻の趣は、一の伝へにて、実は天火明命の子孫葛城に住居けるが、尾張国造になりて、彼国に下り居住し人ありし縁によりて、其国名お取て、本居の葛城お高尾張邑とも雲けむお、誤て本名の如く伝へ雲しなるべし、但しこれらは、今己が思ひよれることにて、たしかには定めがたけれども、とまれかくまれ、葛城に高尾張てふ名のあるは、此氏の本居なる由縁なる事は、違はざるなり、