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今昔物語
二十八
尾張守五節所語第四 今昔天皇の御代に、のと雲ふ者有けり、年来旧受領にて、官も不成で沈み居たりける程に、辛くして尾張の守に被成たりければ、喜び作ら任国に匆ぎ下たりけるに、国皆亡びて田畠作る事も露無かりければ、此の守み本より心直くして、身の弁へなども有りければ、前々の国おも吉く政ければ、此の国に始めて下て後、国の事お吉く政ければ、国隻国にし福して、隣の国の百姓雲の如くに集り来て、岳山とも不雲、田畠に崩し作ければ、二年が内に吉き国に成にけり、然れば、天皇も此れお聞し食て、尾張の国は前司に被亡されて、無下に弊と聞食すに、此の任二年に成ぬるに、吉く福したヽなんと被仰ければ、上達部も世の人も、尾張吉き国に成たりとぞ讃ける、然て三年と雲ふ年五節被宛にけり、尾張は絹糸綿など有る所なれば、万づ不乏、況や守本より物の上手にて、物の色共打目針目皆、糸と目安く調へ立て奉けるに、五節の所には常寧殿の戌亥の角おぞしたりけるに、〈◯下略〉