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冠辞考
二宇
うちよする するが 又うちえする 万葉巻三に〈不尽山お詠〉奈麻余美乃(みの)、甲斐乃国(かひのくに)、打縁流(うちよする)、駿河能国与(するがのくにと)、己知其智乃(こちごちの)、国之三中従(くにのみなかゆ)、巻二十に、〈駿河国防人〉宇知江須流(うちえする)、須流河乃禰良波(するがの子らは)、雲々、こは音(こえ)し通へば、打よするとも打えするともよみたるお思へば、その二つもはた正しからで、実は打泔(ゆす)る泔(す)る髪(が)てふ意につヾけなしけんかし、髪お櫛梳るとき用る水おゆするといへば也、さて此国はいとはやき川有故に、する河とはいふらめど、今ゆす(泔)るかみ(髪)のゆとみお略けるが如くいひなすは冠辞也、同巻二十に、〈同国の防人〉多々美気米(たヽみけめ)、牟良自加已蘇(むらじがいそ)てふは、薦お編(あむ)といふお、あお略きてつヾけたる類ひ也、する河てふ名につきて浪の打よするといへる説あれど、波ともいはで打よするといはんは、古歌の冠辞ともなく、又此上のなまよみてふも、未乾(かはかぬ)弓の反(かへ)るといひかけつること、奈部にいふが如くて、隻冠辞なれば、此語も駿河に由ある語ならぬお思ひやるべきなり、