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碩鼠漫筆

打縁流の発語追考〈附泔坏名義〉 今一説の僻按あり、此打ゆするよりつヾけたる意お、なほ熟稽ふるに、するがお陶汰る金ととりなしたるにはあらじか、〈金おかとのみも雲ふべきは、する〳〵と滝ちゆく川おするがといひ、又白髪おしらがといひ、あて君、犬君等お、あてき、いぬきと雲へるなどに同じ、又俗語にも、兄君おあにきといへり、又故伴信友の、駿河国名義考といふものには駿河は響る処の義にて、駿河郷は富士川の岸なるべければ、さる郷名に負たりけむお、それが後に郡名になり、竟に国名とさへなれるならむ、と雲へり、此説も由なきにはあらねど、処の義と雲へるは信じがたし、響る川の義とは雲ふべし、猶末に全説おもしるしたるお見るべし、〉金は鏈石〈金山にて是おくされ石と雲〉お搗き砕きて、水おかてヽ打陶汰り、樋に流してとるものなれば、〈此事は那須の汰金の解に、委曲にいふお見るべし、〉ゆすがねと雲ふべきなり、良玉集、八雲御抄等に、ゆりがねとあるも同じ、万葉集巻七〈二十二左〉に大海の礒もと由須理たつ波の雲々、武烈天皇紀に、那為我与釐拠魔〈地震がゆり来ばなり、よりはゆりなり、是おもて打縁流も、打ゆすると同語なる事お了知すべし、〉とあるお見るべし、ゆするも、よするも、ゆるも、よるも、もとはみな同語なるおや、かヽれば打汰る汰る金とやうに、取なせるにやとは雲へるにこそあれ、