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丙辰紀行
大島 術ありとて頼むべからず、役優婆塞が鬼神おつかひしも、広足が讒によりて流され、力ありとて頼むべからず、鎮西の八郎が大弓おひきしも、信西がはかりごとにてうつさる、されば此島は、伊豆の沖にありて大島と名づけ、いにしへより風浪のたよりまれなれば、遷客投荒の所とす、近比仙洞の脱屣ましまさヾりし時、宮女の和姦の罪によりて幽閉し、死お給ふべきなれど、天気しきりにありしお、大相国寛仁の心まし〳〵しかば、申宥められて、あまたの宮女お、流し遣はされし新島も此奥にあり、〈◯中略〉 迢々南海浜、挙目不知津、小角来駆鬼、八郎謫化神、土人畜獣類、風俗混魚鱗、寄語一漁叟、天涯奈女身、