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伊豆海島風土記

御蔵島(○○○)は、伊豆国加茂郡下田湊より巳午の境にあたり、海上三十里余、江戸よりは午未の間に当り、海上七十里程あり、三宅島よりは五里ばかり南へはなれ、八丈灘に近き島ゆへ夕行甚だ早し、海辺巌尖にして、常に洗波高く、山崖峨々と聳へて樵路甚だ嶮きなり、海陸の通ひ安からず、猶かつ船の出入危く、唯一艘の島船にて、国地との交易おなすに、其の便年に希なり、しかも四方一里に過ぎざる小島なるゆへ、物毎至つて乏しく見ゆる、四季の時候寒暑とも三宅島に不異、また人物も、かたち言語は三宅に等としく甚律儀なり、男女とも髪は細き苧縄にて束ね、身にはひざかくるヽばかりのものお著し、帯には葛藤かづらやうのものお打和らげ、縄になひて用ゆ、