[p.0690][p.0691]
甲斐名勝志

夫甲斐国は、山岳四方に連なり、郡郷其間にあり、甲斐は峡の仮字也、倭名抄、峡は山間峡処、俗雲山乃加比とあれば、山のかひの意もて、名付たる国の号なるべし、峡は間也、阿加同韻にて通ずる也、風土記には介賓(かひ)、日本紀には柯彼、続日本紀には歌斐とも書り、皆仮字がきなり、〈◯中略〉一説に、甲斐国は諸国に勝れて、果の美き国なり、斐の字、木実と読字なり、故木の実に甲たりと雲意にて、甲斐と名付しと雲、今字彙及正字通お見るに、斐の字、木の実と訓ずる義なし、仮令木の実と訓ずるとも、甲斐は仮字なり、字によりて解すべからず、是俗説の誤也、