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甲斐叢記

国名 万葉集高橋虫麻呂が奈麻与美乃加比(なまよみのかひ)といへる詞、諸説区々にして一定せず、欽〈◯大森〉按ずるに、詩の小雅の注に、慦は心不欲、而自彊辞とあるお、万葉集に奈麻志斐(なまじひ)と訓たり、奈麻(なま)とは生熟の生にして与美(よみ)はやみなり、よとやと同韻にして通へり、奈麻、也美は浅闇きおいへり、かひは山間の峡処なれば、樹木蕃茂て常に浅闇し、故に斯く冠らせしならん、〈◯中略〉 追録、奈麻与美の甲斐と雲る事お、黒川春村の考には、奈麻与美はなみやまの転語にて、並山の間といへる義なるべしと雲り、