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甲斐名勝志

甲斐八景〈享保年中、柳沢侯依奏聞勅許、〉 夢山春曙 中院大納言通躬卿 きのふまでめなれし雪は夢山のゆめとぞ霞む春のあけぼの 竜華秋月〈竜華山永慶寺、享保年中、柳沢侯所建立也、在山梨郡若窪村、今廃、〉 武者小路参議実陰卿 名にしおはヾ峯なる秋の月やしる其暁の花のひかりも 富士晴嵐 入江民部権少輔相尚朝臣 吹おろすあらしお見せて一むらの雲もさはらぬふじのしら雪 恵林晩鐘 外山三位光顕卿 静かなる夕のかねのこえきヽて見れば心の池もにごらず 石和流蛍 日野中納言輝光卿 石和川夏なき浪のよる〳〵は水のほたるのかげぞながるヽ 金峯暮雪 久世三位通夏卿 日のかげは暮てもしばし色はれぬ雪ぞこがねの峯にかヾやく 酒折夜雨 冷泉中納言為綱卿 暮ぬまのあらしはたえて酒折にまくらかるよの雨になるやと 白根夕照 中山大納言為親卿 此夕のこる日かげははれていまむかふしらねの雪ぞくまなき