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人国記
相模国 相模之国は、風俗豆州に似るといへども、人の気転変仕安き所也、栄る人には縁お以てしたしみ、今日までなれし人にも、不得時而蟄居すると見る則は遠り、無科人にも科お付てそしりなし、非有る人にも時めく人おば馳走して是おほうびし、常に栄花お好み、好味お求て酒色お玩ぶ風儀、十人に八九人如斯也、因茲主は被官に被放、被官は主お捨て、今日まで傍輩と成し人おも、明日は主君と仰ぎ、主が被官になり、被官が主に成風俗也、而も智あつて智に迷ひ、義お知て義に迷ふ、誠に悪お備る風俗也、