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武蔵志料

鐘 橘樹郡川崎村勝福寺鐘 上総国望陀郡奈良輪(ならわ)村の東に、坂戸市場といふ処有、そこに坂戸明神の神社有、〈或雲逆手〉多力雄神お祭り奉ると雲、その宮居しきくいやかにして、めづらしき結構也、その社頭に古鐘一口お懸おく、この鐘の象形甚古への物にして、今の制とは大に異也、銘有て、その後方に、弘長三年癸亥武州河崎庄(○○○)内勝福寺と有、今按に、弘長は八十九代亀山院の紀号にて、鎌倉の平時頼最明寺この年に薨ぜられたり、明和元年に至りて、すでに五百八年におよべり、思ふに古へ戦の乱れに、奪取てかの所へ持行しならん、鎌倉寺々の鐘に、かヽる類ひの事いと多し、