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人国記
武蔵国 武蔵国の風俗、くわつだつに而気広し、譬ば秘蔵之道具お過ちに因て損る時は、其者之恐れ哀むは最成に、其主且而後悔の気色なくて、結局夫に恩お与て情お深くする類之心地、子細は秘蔵之器おたくみて可割様なし、吾も人もあやまちするは無念也といへども、とがむるは亦此方之過り也と思案而、名人之風俗也、因茲軍に合ふて敗軍するといへども、敢て其気お不屈而、能く気お改めて、敗軍之士お集めて出陣するの類也、凡そ気に乗と気に後るヽとは、雲泥万里也といへども、乗も後るヽも、亦しいて可也としがたし、隻道理に因る時は気に乗じ、不可成時は己が非お知て、承而制するお上とす、然れども是国風猶いさぎよき風俗也、次に気広きお以て驕る気強し 口伝