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冠辞考
三古
衣手の 〈ひたち〉 万葉巻九に、〈筑波山歌〉衣手(ころもでの)、常陸国(ひたちのくにの)、二並(ふたなみの)、筑波乃山乎(つくばのやまお)雲々、こは在満がいへる、ひだとつヾけたらんと、今考るに、古の袖ははヾのせばくて、たけの長ければ、手共(たむだく)にも、事おなすにも、袂のくだりおたぐる故に、ひだ多かるべし、依て右の説およしとす、和名抄に、襞襀周礼註雲、祭服朝服襞襀無数、〈訓比多米〉こは裙おいふらめど、袖のひだのよしともなりぬ、凡此衣手とつヾけたる条々、皆こヽろ得がたき事多きは、古への衣の様お、よくしり得ぬゆえなるべし、〈右お衣うつ事とおもふ人もあれど、しからば下の条に、契冲がいへるごとく、ふる衣などあるべきお、衣手と有は、袖の事なれば、袖お搗(うつ)てふ事は侍らぬ也、衣手おうちわの里とつゞけたるも、又別なり、〉