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人国記
常陸国 常陸国之風俗、如形不可然而、唯盗賊多して、夜討推込辻切等おして、其悪事顕れ罪科に行はるヽといへども、恥辱とも且て不思、結局至其子孫には、病死などは不為などヽ、一つの系図に而、盗賊するお微塵も非義非礼と雲事お不知やうの風儀にて、唯肝胆之間、逞く生れ付て如此と見へたり、武士之風儀も是に不替而、道理お知る人少し、たとへ知といへども、我意にまかせて執行、故に理に似たる無理、義に似たる不義のみ多而、更に善と難雲、世之唱ふるにも、常陸国お差而全き人なき国と呼り、昨日味方にて今日は敵と成の風儀は、千人に、一人もなし、若し国風之垢おけづる人あらば、天下に名お呼程之者なるべし、