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諸国名義考

近江 和名抄に、近江〈知加津阿不三、国府在粟本郡、〉名義は淡海(あはうみ)なり、この国に大湖あるゆえに負せたる名なり、続日本紀、元正天皇養老元年九月丁未、天皇行幸美濃国、戊申、行至近江国、観望淡海とある淡海は、則大湖おさして雲るにて、此国の名義なり、さるお近つ淡海といへるは、遠つ淡海に対へたる名なり、古事記伝に、遠江に対へて、近つ淡海とはいへども、古も今も、常には阿不美とみの言り、故師は、古事記に近字あるは、後人の加へたるかと雲れたり、雲々とあり、さもあるべし、国造本紀には、遠江おば遠淡海と書れど、近江はたヾ淡海とのみ書り、藤原不比等公薨去の後に、近江国に封て、諡お字音にて淡海公と賜ひしにても、いにしへ淡海の字お用られしことしらる、されば阿波宇美と唱へしことうつなくおもはる、