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太平記

俊基朝臣再関東下向事 駒も轟と蹈鳴す、勢多の長橋打渡り、行向人に近江路や、世のう子の野に鳴鶴も、子お思かと哀也、時雨もいたく森山の木下露に袖ぬれて、風に露散篠原や、篠分る道お過行ば、鏡の山は有とても、涙に曇て見へ分ず、物お思へば夜の間にも、老蘇の森の下草に、駒お止て顧る、古郷お雲や隔つらん、番馬醒井柏原、不破関屋は荒果て、〈◯下略〉