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人国記
近江国 近江国之風俗は、賢佞之間お兼たる風儀なり、雖然賢智之人お聞く事なし、佞人多かるべきなり、身持上手二而、人に非お可被討事お言葉に不顕而、隠非而善お説く然る故に心お不付而是お見るときは、一段この国の人は、総而きはだち余国にすぐれたりと見ゆるなり、是おたとへて以論ずるにかねにおなじ、かねには金有、銀有、銅有、鉄有、錫有、鉛有、みなかねに而みな格別也、さればこの国風、かねといへば結構のやうなれども、金にあらず、銀にあらず、たヾ銅鉄鉛錫のうち也、是お以是お見れば、この国は半佞国と可知、佞人は必利根利発利口に而、言舌は賢人にも劣ることなし、吾愚に而賢佞おしるべきやうなし、唯善悪言行お案而可知也、 口伝