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人国記
美濃国 美濃国之風俗、其意地きれいに而、たとへば水精のごとし、されば水精も不磨ば光り出る事あたはず、然ども根性およく生付きたる風俗は、必垢おけづること早し、而能く道理にしたがふ、雖然西美濃は人之風儀柔に見えて、徹する処之物鮮く、言舌風流に見ゆるなり、東美濃は生得のまヽに而木地なり、日本の内之風俗四五け国の内なり、されどもところがら気しつになれたる風なればいやしきことも多く有之也、直成が能きとて人の手足の曲るは亦其理之上の直也、如斯の節にあたると雲事お知りたる人は、百人に七八十人は無之而、たま〳〵一人にてもこの理に達する人あらば名高成べし、され共勢強ふ而、国風之手本ともなるべきほどの人は希なるべきなり、