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藤河の記
みのゝ国の歌枕の名所、その所はいづくともしらねども、こゝろにうかぶ事どもお筆、のついでにかきあつめ侍るべし、 まれにきてみのゝお山の松のうれのうれしさみにもあまのは衣 あま衣みのゝ中山こえ行ばふもとにみゆる笠ぬひの里 いのるぞよおさまるみ世おまつことはみのゝお山のひとつこゝろに 時鳥ね覚の里にやどらずばいかでか聞む夜半の一こえ はゝきゞの梢有ともみえなくにたれおも山となづけ初けん 明くれはしげきうきみのわざみのに猶分まよふ夏草の露 五月雨のもみぢお染るためしあらば舟木の山のいかにこがれん 七夕の逢せは遠きかさゝぎのおぶさのはしおまづや渡らむ 東路のうるまのし水名おかへばしらじな旅にたつの市人 鳰鳥のすのまた川に月すめばあらはれわたる浪の下道 わかえつゝ見るよしも哉滝の水老おやしなふ名にながれなば 席田お織物ならばしき浪やいつぬき川のたてとならまし いく千とせかぎらぬ御代は席田のつるの齢もしかじとぞ思ふ 蘆がきのまぢかき跡お尋ても小島の里にみゆきやはせぬ 世の人のあだお結ぶの神なりといのらば心とけざらめやは