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飛州志
一緒歴
原夫、東仙道飛騨国は、三郡二十四郷四百十四村あり、凡口碑に伝ふる処は、南北三十四里余、東西二十五里余に及べり、国中総て平陸少く、山連り峯聳へて、雲霧常に覆ひ、朝日遅く出て、夕陽早く没せり、潤水周流して大河多し、其激流の驍駚なるには、処として桟道ならざるは無し、適其には綱お浮めて、此方より彼方の岸に宣し張り、艗なる人は是お手くり、艫なる人棹て航せり、他国の航橋と同日の談には非ず、其外国に漕船無し、又通路の嶮阻、経歴之艱難、至れり尽せり、其樵跡に鳥も諦かず、火耕に牛の助けも無し、其四境は、美濃、信濃、越中、加賀、越前の五州に分り、猶其国々に於ても、山奥に続きたれば、隣州と雲へども遠国に等く、往来猶窘苦なり、南東に御岳、騎鞍岳、小鷹岳、錫杖岳、笠岳あり、北の俣といふ大山、東より北に覆ひ、白木峯、金剛岳、三方崩なんどヽ称する岳々、越の白山まで続きて北西に摎れり、西南の間は、河上岳のみにて土地砕るが如く、濃州武儀郡に接して、高岳なしといへども、道路狭窄にして騎お並ぶべき所希なり、