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飛州志
七諸説
【称謂言語】(しよういげんぎよ) 本土に於て民の通称とする処の国言お載す、猶此余解しがたきもの多し、詳なるには及ず、 やた〈稲の穂おこき落したる其藁に残る所の籾お雲ふ〉 あらもと〈米お撰み、或は春とき、洩れこぼれたるものお雲、他州の俗あしもとヽ雲に等し、糲字かれいの音、あらの訓あれば也、〉 ゆるご〈米お苧篩にてふるい、是より出る所の粉お雲、〉 せいな〈米のしいな也〉 おやす〈村里の名主庄屋お、民の敬して雲へる言也、各其村長也、〉おんの〈祖父の事也〉 なぼう〈祖母の事也〉 だヾ〈母の事也、父おてヽと雲、ととヽ雲事は他州と同じ、〉 ぼう〈男児の事也〉 びい〈女児の事也〉 たし〈子共と雲事也〉 こりよう〈小女の事也、按ずるに、本邦に於て高貴の女児お御料人と雲ふ、然るお誤り称するか、太平記にも、北条高時の男万寿御料、〉 ごれん〈娵の事也〉 まヽ〈乳母の事也、按ずるに、枕草子春曙抄に、僧都の君の御めのとのまヽ、註雲、源氏蓬生の宮の乳母おもまヽと雲いしと見えたり、〉 やら〈我と雲事也〉 おら〈我等也〉 あんしゆ〈世俗あの衆と雲に同じ〉 威名衆(いめうしゆ)〈是村民の古昔其領主に対して功お立、感状等得たるものお、他人の称する号也、〉 威名田(いめうでん)〈同上田畠等お得て子孫に伝へたる号也、〉 家抱(けぼう)〈是元来民の僕たるもの、別家に出て民と成る、然れども誰家抱と号して、古来一戸の民にはあらざる也、〉 すま〈隅也〉 ちやうだい〈民家の納戸也、調台なるか、〉 かまち〈民家に於て上座の事也〉 わかた〈上の方と雲事也、うはかたの略語か、〉 うれ〈上也、按ずるに、歌にも薄のうれ葉、萩のうれ葉など読〉〈めり、是上葉也、〉 あらと〈山川村里ともに、其始の入り口也、〉 へえつぼ〈穀助お蔵むる所也、稗坪なるか、〉 おち〈外地お雲、大路なるか、〉 えみづ〈溝也〉 布橋(ぬのはし)〈材木おわたしたる橋お雲、布お引たる如しと雲事也、〉 布川(ぬのかは)〈一河の名にはあらず凡て河中に岩石無く、流水静なる所は布お流すが如しと雲事なり、〉 さら田〈上田の号也、是水お乾して作る田也、〉 水田〈下田の号也、是水お湛え、土気乾かざる如くして作る也、〉 泥田(とろた)〈同上、深泥の田なり、〉 あわら田〈同上〉 あと〈田に水お入れ或は水お流す、其水口の号也、〉 そめ〈田畠に立る鳥おどし也、他州のかヽしと雲に同じ、〉 やきだて〈野猪の皮お少しづヽ串に挟み、火に焙りて田畠の囲に建つ、野猪の威し也、其臭気に恐れ来らず、〉 どうづき〈是も威しなり、引板と雲ふに同じ、流水にたより作るお河どうづき水ばつたりと雲、〉 野猪落(しヽおとし)〈凡て野猪お捕る穽也〉 おせ〈同上〉 熊落〈熊お捕る穽也〉 うとろ〈木石ともに凡て中真空虚なるお雲〉 すろ〈凡て中真の穴お雲〉 いなばき〈筵の事也〉 さうげ〈塩笋の事お雲〉 つぶら〈藁にて組たる籠也、下民幼児お是に入れ置て常に養育するものなり、〉 ひらか〈下駄の事也、平架か、〉 いしな臼〈石臼の事也〉 かち〈搗也〉 ちやまが〈茶釜也〉 えんど〈印籠也〉 どんびき〈蟇の事也〉 いぐいす〈鶯の事也〉 しよ〳〵〈鰌魚の事也〉 あつほ〈餅の事也、他州の小児あんもと雲に同じ、〉 ひりめし〈昼飯の事也〉 こしのせ〈きこしめせと雲事なり〉 おむしやれ〈食物おす主むる事也〉 う〈湯の事也、俗ゆでるおうでると雲に同じ、又うとゆと通ぜり、〉 ふた〳〵〈水の動するお雲、他州の俗たぶ々々と雲に同じ、〉 またし〈用意の事也〉 かつと〈大分と雲事也〉 たらふく〈十分と雲事也〉 だんさく〈卓山と雲事也〉 ふだん〈同上〉 へいと〈一面或は平等の事也〉 りこう〈凡て宜きと雲事也、〉 でかい〈凡て大きなる事なり〉 ぶんぶ〈小児お脊に負ふ事也、他州の俗らぶうと同じ、〉 あぶ〈小児お肩に乗せる也、かたくるまと雲に等し、〉 おい子〈凡て物お背に負事也、負子るとも雲へり、負任に作るべきか、〉 はかてつ〈凡て是計夫計りと雲お、是ばかてつ、夫ばかてつと雲也、〉 ほせ〈木の枝木の切れ也〉 くせ〈此方へ越せと雲事也〉 てきない〈凡て苦るしき也、他州の俗せつないと同じ、〉 てこ〈凡て甚しきと雲事也〉 おそがい〈恐き事也〉 すかぬ〈不宜事、或気味悪きと雲事也、不好か、〉 ほせ〈押せと雲事也〉 ふんぎやらかせ〈蹈倒す也、他州の俗ふんがらかせと雲に同じ、〉 きつくちがえし〈俗の言葉かえしと雲事なり〉 ぎやめく〈喚也〉 ぬまくたわら〈泥沼の地お雲〉 いま〳〵しい〈勿体無きと雲事也、按ずるに、古書天子の御事は、忌み忌みしきなど出たり、〉 まいきさ〈傍若無人に振舞事お雲〉 きやつた〈来やつたと雲事也、きやとつめて雲ふ、〉 そこなて〈俗そこらのあたりと雲に同じ〉 えがむ〈曲也〉 しゆげる〈茂也〉 さかよる〈栄也〉 ほける〈耽也〉 とこしよ〈とこしなゆと雲事也〉 せんせほう〈折節と雲事也、沙石集にもあり、〉 きのふのばん〈一昨晩と雲事也〉 やど、〈家主他行せし留守の事也〉 よりかえる〈ふりかえると雲事也〉 よほる〈呼也、〉 あやほや〈彼是と雲事也〉 まヽやく〈物の間違いたると雲事也〉 いちげん振舞〈婚姻せし家に於て、始めて其一門たるもの祝会〉〈する事也〉 てつとしよう〈必ず実正と雲事也、〉 しよもんしよう〈誓文実正と雲事也、又大しよもんとも雲也、〉 てう〈是まこと也と雲 事に用ゆ貞心の貞か、〉 雪おこし〈冬日雪降らんとする時、山の鳴る事お雲、〉 てうはい〈年始の礼お雲也、按ずるに、是朝拝と雲おあやまり伝るものか、〉 畠打参(はたうちまい)りたり〈山家の民年礼の言也、はたうちは耕作の事、畠おば打と雲へばなり、〉 綿脱参(わたむきまい)りたり〈同上、是女の言也、繭お綿に作るおむくと雲へばなり、凡て畠打わたむきともに、山中に於て重んずるお以て也、〉 めんたい〈同上、是以上の礼お請る家主の返答也、めんたいは目出度の誤り成るべし、〉