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飛州志
一緒歴
凡此州人は、山陰の気お廩たるにや、男子たるもの愚痴局校にして、事物の上に於て道理お了別せざること最多し、是等おあつめて習俗の卑賤お成せり、余其不弁お見るに、気質一偏に頑固なるにも止まらず、意地蓬うして、物に遷惑せられ易し、又山奥の民は極めて偏固なれども、事物の道理に通ぜさるは増々甚しければ、所謂強者の類にも非ざる也、婦女の体態敢て他州に異ること無し、其教戒の疎かなるは、此州のみにも限らず、隣国の習俗と見へたり、桑蚕織紝お第一の業とし、其余の大業おば男子に譲るといへども、下賤に至りては、又男子のつとめにも増れるなるべし、 凡此国に生るヽ男女僧俗、他州に出て其身お立るといふも、古今其例希なり、土著の民増々多きこと知れたり、 凡民の食物品多し、麤食に至りては、食物とも見へず、食の風味にもあら子ど、飢お助るに余りあり、器物の品、衣服の制、猶それとも見難し、其冬春お過すは、身お窠にして居れり、故に日中に逮ばざれば、炉辺お去て業お成得ず、山川村里の雪消ざるの間は、其境界も分ち難く、積雪勁寒に制せられて、人と物と相あはれむべきものなり、毎歳暮春初夏に至らざれば、春の花開けず、其開けるに及では、梅桃桜の次第もなく、皆盛お一時にせり、盛夏ばかりは、暑気至つて其代謝は見ゆれども、旦暮冷かに爽なること余国に異り、秋冷の至る又早し、自次序お逐て業おなす間は、他州の三季にも比すべからず、習て性と成る故に、業お励むに疎懶なり、是気候不順なるに制せらるヽ所以乎、〈〇中略〉 凡商買は、合国第一の業とせり、然るに中頃材品時めきしにより、諸国の商人数多此国に入、一時に諸材お伐出せしかば、さながら列岳攅峯お赧にせんとす、援に於ておのづから俗風一変し、生民其利に趣りて、身上の栄枯地お易へたり、既にして其事も停けるは、在山の年数に制限あり、殊には国民永世のたつきと成せし材品も、此時に至つて悉く尽なんとするに始て驚き、是お歎き訴ればなり、今の如きは、山中の民のみ材お業とす、租税に充る田畠少きが故なり、