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千曲之真砂
前編一
国図源流并国界風土寒暖 藻塩草曰、しなの主国、是坂東一高き国なり、甲斐よりも登り、越後よりものぼる、美濃よりものぼるといへり、日本事跡考曰、〈上略〉地高而寒群、川之長大者、其源多自此国流出、 私曰、此国外より流れ入る水無し、近国の大河、此国お川源とす、其大略天竜川は諏方湖より南方遠州へ流れ、木曾川は鳥居峠より南へ流れて美濃へ落、犀川は駒が岳より出北へ流れ、水内郡に至り千曲川と合し、千曲川は金峯山より出北流れ、犀川と合し下て、越後新潟に至て海に入る、荒川は川上山東より出、武州へ流れ隅田川となる、釜無川八が岳の南より出、東南へ落ち富士川となる、利根川は浅間山後より出づ、碓氷川は碓氷山より出、東流れ下て烏川と合し、利根川へ落つ、同山の北角打が岳より鳥巌、鳥川へ出、碓氷蕪川二川と合して利根川へ落ち、姫川は安曇郡佐野の嶺の西北より出、北流れ越後の海に入る、関川は水内郡野尻湖水より出、高田へ落、海に入、大井川は伊奈郡と甲州との境より出、東海道へ落つ、其外の小川源は枚挙するに暇あらず、此の如くなるが故に、地の高き事日本無双と謂べし、又雪の降事は多からずと雖ども、寒気の甚き事は他に准ずべき国なし、これに因て少し降りたる雪も、旬お越え月お重ても消する事なし、又曰、水内高井両郡、越国に隣る地は、北越に劣らず雪降る事多し、常に尺余に及び、大雪と雲時は丈余に至る、往来雪車橇、又は雪竿お用ゆ、二月末に至り雪消る後見れば、草鞋等樹頭に掛れり、然れども寒気は諏方佐久二郡よりは暖なり、雪は少しといへども、風烈く寒気の甚事は、諏方、佐久、又は木曾谷辺、猶日本に双び無しとなり、