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日本鹿子

下野国名所之部類 がんまんが淵 日光に有 へう〳〵たる淵也、向に大山のごとく成岩ふちへおほひかヽりたり、〈◯中略〉 寂光 観音本尊也 寺領十三石 山の上に立、堂の脇向(わきむき)に二丈計高さの滝あり、滝の上に不動有、よき景也、 裏見の滝 不動立 日光山よりひつじ申に当れり、日光より一里半程あり、滝の所へは山お越て又下る也、滝の少前に岩のほらあなあり、二間に三間ほどあり、其内にしやうず河原のうば石にて作る、其外石塔三つ四つあり、新湯殿といふて、山伏参詣してぼんでんお納る也、それより滝へ下り、滝のうらより見る也、たき高さ二丈ほどあり、滝の広さ三間ほどあり、滝のうらに石にて不動作り、滝の下に立る、中々凡人一人昼も行がたし、所の者にたづぬれば、天狗の住家と雲、おしこといふ者は、此滝のちかく成木の枝にかけると雲々、 霧降の滝 日光山より丑寅 道法三里ほどあり、滝の下やげんのごとく谷也、滝三段に落る、上の滝には松紅葉其外色々の木共よき景にはへたり、たき三段におつるせいにて、きりのごとく水ちる也、日光開山の景也、狩野の探幽絵にかきしと也、其ほど近くみれば、布引の川とて見ゆる、其川にてむかし天女布さらせしといひつたふる也、 戦場が原 むかし神いくさの場也といひ侍る、さも有つべし、 守(もり)子石 中善寺ふどう坂 日光山のもり、中ぜんじに参らんと願ひて、ふどう坂までのぼりしが、一夜の内石になりたると、道づれかたりしと雲々、中善寺は女人けつかいの山也、 伊吹山 近江国同名有 後拾遺恋のうたに、藤原実方 かくとだにえやは伊吹のさしもぐささしもしらじなもゆるおもひお 室八島(むろのやしま) 新後撰夏の部に家隆(かりう)のうた 立のぼる煙も空に成にけり室の八島の五月雨のころ 那須野 此野に殺生石あり、そのむかし近衛院の宮女、玉藻の前化して此石となれり、玉ものまへおば、三浦介上総之介したがへたると雲々、 武士の矢なみつくろふこての上に霰たばしる那須の篠原(さゝはら) 二子山 桜け池 標茅原 黒戸の浜路 走湯(はしりゆ)の滝 中禅寺湖 名所にはあらず、眺望無双の地、利根川の水上也、