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下野国誌
二名所勝地
黒髪山(くろかみやま) 都賀郡、日光山の奥にあり、当国第一の高山にて、遥に武蔵、下総、常陸等の国々よりもみゆるなり、世俗は男体山とも呼なり、〈◯中略〉 〈万葉集七 無名〉 ぬば玉の玄髪山お朝こえて木の下露にぬれにけるかも 〈同十一 柿本人麿〉 ぬば玉の黒髪山の山菅に小雨ふりしきます〳〵ぞおもふ〈◯中略〉 二荒山(ふたらやま) 日光山の古名にて、もと補陀洛山なるお、歌にはふたら山とよみ来れり、委しくは、下の仏寺部の日光山の条に記したり、 〈蜻蛉日記 右大将道綱母の日記なり〉 下野や桶のふたらおあぢきなきかげもうかばぬ鏡とぞみる〈◯中略〉 歌浜(うたのはま) 中禅寺の湖辺にあり、委しくは仏寺部の日光山の条に記す、〈回国雑記に、今宵はことに十三夜にて、月もいづこに勝れ侍りき、渺漫たる湖水侍り、歌の浜といへる所に、紅葉色おあらそひて、月に映じ侍れば、船に乗りてとあり、〉 敷島の歌の浜べに船よせて紅葉おかざし月お見るかな〈◯中略〉 滝尾(たきのお)〈三本杉〉 日光山の滝尾権現の鎮まりいます所なり、三本杉と雲古木ならびたてり、委しくは仏寺部日光山の条に記せり、〈回国雑記に、滝尾と、申侍るは、無双の霊神にてましましける、飛滝の姿目おおどろかし侍りきとあり、〉 世々お経てむすぶ契りの末なれやこの滝の尾の滝の白糸〈◯中略〉 山菅橋(やますげのはし) 日光山の入口にあり、今は神橋(みはし)と唱ふるなり、其下の流れは大谷川といふ、中禅寺の湖より落て、末はきぬ川に入なり、八雲御抄に、下野の菅橋とあり、枕草子に、山菅の橋名おきヽたるおかしとあり、〈◯中略〉 伊吹山(いふきやま)〈里〉都賀郡吹上村にあり、栃木駅より西北の方にて今道一里余あり、〈◯中略〉 標茅原(しめちかはら) 都賀郡河原田村にあり、伊吹山より十余町東の方にて、今しらぢか原と訛れり、〈◯中略〉 〈六帖〉 下野やしめつが原のさしもぐさおのが思ひに身おや焼らむ〈◯中略〉 室八島(むろのやしま) 都賀郡総社村にあり、其隣郷に国府村ありて、古へは総社村も国府の分郷なり、〈◯中略〉 〓杜(しはぶきのもり) 右に同じく、国府村の北の方にて、総社明神と室の八島との間にある森おいふなり、 〈朝忠卿家集 本院の将曹しはぶきするおきヽてとあり〉 下野やしはぶきの森のしら露のかるヽおりにや色かはるらむ〈◯中略〉 三橋山〈駅〉 都賀郡にあり、兵部式に三鴨駅とあるも此所なり、和名抄にもあり、〈◯中略〉 三香保崎(みかほのさき)〈関〉 同所なり、八雲御抄に、三香保崎慈覚大師誕生の地とあり、今下津原に大師の産湯あび給ふ跡とて、盥窪(たらひくぼ)と雲所あり、烏丸光広卿の日光山紀行にもみえたり、〈◯中略〉 安蘇川原(あそのかはら) 安蘇郡佐野天明駅の西お流るヽ川なり、往古は天明の東お流れしといへり、水上は同郡秋山と雲所より出て、末は佐野の中川とヽもに利根川に入るなり、〈◯中略〉 安蘇沼(あそぬま) 安蘇郡佐野天明駅の東の入口小屋街と雲所の田の中にあり、今は大かた田になりて、わづかに東西四間許、南北六間許の沼となれり、真菰(まこも)生ひ茂りて水もみえぬばかりなり、〈◯中略〉 安蘇山(あそやま) 安蘇郡なり、是とさす山はあらで、佐野庄より北につヾきたる山お、すべて安蘇山と唱ふるなり、〈◯中略〉 佐野(さの)〈中川船橋田〉 安蘇郡佐野庄お雲なり、佐野の中川と雲は、渡瀬(わたらせ)川のことなり、〈◯中略〉 二子山(ふたこやま) 安蘇郡足尾郷の山つヾきにて、日光山より上野国へ越る山中にあり、八雲御抄、藻塩草等にも下野とあり、 〈後撰集よみ人しらず 下野にくだりける女にかたみにそへてつかはしける〉 ふた子山ともにこえねどます鏡そこなるかげおたぐへてぞやる 寒川(さむかは) 寒川郡にあり、水上は都賀郡河原田村の標茅原より涌出て、栃木駅の西裏お流れ、寒川郡寒川村にて、出流沢の流れと落合ひ、末は佐野の中川とヽもに利根川に入なり、〈◯中略〉 宇都宮(うつのみや)〈里〉 河内郡二荒神社お雲なり、今は地名おも宇都宮駅と唱ふれど、往古は池辺郷、また中頃は小田橋の駅ともいひしなり、〈◯中略〉 衣川(きぬがは) 塩谷郡栗山の奥より出て、同郡佐貫の辺りにて、黒髪山より出る大谷川と落合ひ、芳賀郡と河内郡との境お流れ、常陸下総お経て、利根川に入なり、〈◯中略〉 塩屋里(しほのやのさと) 塩谷郡氏家駅と喜連川駅との間にて、五月女(さおとめ)坂と雲所なり、和名抄には、郡名にのみ塩の屋ありて、郷名にはなし、〈◯中略〉 狐川(きつねがは)〈里〉 塩谷郡なり、今は喜連川と改む、されど猶きつね川と唱ふるなり、〈◯中略〉 那須野〈淘汰金(ゆりかね) 温泉(いでゆ)〉 那須郡太田原の辺より、陸奥の国境までおなべて那須野原と雲なり、其西北の方に那須岳と雲山ありて、麓に温泉あり、其所に殺生石と雲毒石あり、〈◯中略〉 朽木柳(くちきのやなぎ) 那須郡葦野駅の町はづれより、西北の方百歩許にあり、遊行柳とも雲なり、猿楽の遊行柳と雲謡曲は、則此柳お作りなしたるものなり、〈◯中略〉 姿川(すがたがは) 都賀郡猪の倉山より出て、末は佐野の中川と落合ひ利根川に入なり、〈◯中略〉 都賀山(つがやま) 都賀郡の山おさして雲なり、安蘇郡の山お安蘇山といふが如し、〈◯中略〉 真岡里(まおかのさと) 芳賀郡にあり、古名芳賀郷といひし所なり、晒木綿の名所なり、〈◯中略〉 庚申山 安蘇郡足尾郷赤岩と雲所にあり、二子山の峯つヾきなり、日光山より西の方にあたりて七里許あり、〈◯中略〉 檀山(まゆみやま) 歌枕名寄に、下野と挙たれど、もと何に依て下野と定めけんおぼつかなし、〈◯中略〉