[p.0223][p.0224]
諸国名義考

越前 和名抄に、越前〈古之乃三知乃久知、国府在丹生郡、〉立入信友雲、京より越前敦賀郡へ行道に、道の口といふ地あり、この国の古名にかなへりといへり、名義は日本紀纂疏に、彼地有坂、名曰角鹿(つぬがと)、行人必踰此坂入越絶故名曰越也とあるは非なり、〈◯中略〉されど越前、越中、越後、加賀、能登、出羽等おしなべていにしへの越の国にて、陸奥と一つヾきの国なり、類聚三代格に、此国面帯大海遠向異方雲々とあり、日本書紀垂仁天皇紀、額有角人、乗一船泊越の国笥飯(けひ)浦雲々、問之曰、何国人也、対曰、意富加羅(おほから)国王之子、名都努我阿羅斯等(つぬがあらしと)、亦名曰于斯岐阿利叱智干岐(うしきありひちかんき)雲々などありかヽれば外国人来り、調貢など運び置しゆえにやしか号けヽむ、外国おさして諸越(もろこし)などいへるお思へば、調貢の品々お越の国なるべし、〈◯中略〉又は古事記に、於高志前(さき)之角鹿(つぬが)造仮宮而坐雲々、其御祖息長帯日売命、醸待酒以献爾其御祖御歌、許能美岐波(このみきは)、和賀美岐那良受(わがみきならず)、久志能加美(くしのかみ)、登許余邇伊麻須(とこよにいます)、伊波多々須(いはたたす)、須久那美加微能加牟菩岐(すくなみかみのかむほぎ)雲々、日本書紀崇神天皇巻に、天皇以大田々根子令祭大神、是日活日(いくひ)自挙神酒、献天皇、仍歌之曰、許能弥枳破(このみきは)、和餓弥枳那羅孺(わがみきならず)、椰磨等那殊(やまとなす)、於朋望能農之能(ほものぬしの)、介弥之弥枳(かみしみき)雲々とあれば、久志は酒おいへるなり、また記の応神天皇巻の大御歌に、須々許理賀(すすごりが)、迦美斯美岐爾(かみしみきに)、和礼恵比邇祁理(われえひにけり)、許登那具志爾(ことなくしに)、和礼恵比爾祁理(われえひにけり)とあるなどお思へば、久志の国なるべきよし論ひ給へり、猶下の能登国の条にいへるおてらしあはせみよ、