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人国記
加賀国 加賀国の風俗、上下ともに爪お隠而身お陰に持つ、中にも江沼、能美如此、石川、川北之郡は、すこし違て気のびやか也、蓋し武士の風俗、おとなしやかに有て、尖成気なく、温和也といへども、武士の上にて秀る事お差て不顕、唯たヽみの上にて、調儀お以て身上お上分になさんと思ふ気質之多き事、百人に五十人如斯、譬ば他国に合戦、亦は堺目論之軍有といへども、吾国全ふ而出る事もなく、我国に差向ものあらば、不得止事而戦もの也、戦国のうち迚も、人の国お無故奪んとするは盗賊之類也と、諸人覚悟お究て、賢人風の形儀成ふるまい也、亦諸事之道に付、吾国より外に差て替る道理も有まじきなどヽ、他お求る気無之風俗に而、諸事に泥み安く、何の道にても是に従て学ぶといへども、やがて其気屈而半途より捨るの類多し、されば其気お流通而、克己之工夫から不入して、自然と怠りの気になれたるもの也、都而諸事此国になす処より外は、他に有まじきと思ふ意地なれば、深く学ぶ志強かるべき故、天下の定規とも可成国風なるに、最気質之如此事浅猿し、