[p.0281][p.0282]
日本鹿子

同〈◯加賀〉国中名所之部 蓮乃(はちす)浦 越前の東也、かなつの宿より二里あまり行ば、加賀のさかいなり、蓮の浦は入江也、北より南へ、ほそき入江也、塩越の松とて此あたりにあり、是より越前の浦浜なり、 罪深き身はほろぶやと音にきく蓮の浦は行てだにみん 竹浦 蓮の浦より東にたちばなと雲宿あり、是より北にあたりて竹の浦有、 音に聞竹のうら風吹たてヽ真砂にあそぶ秋のかりがね 小塩の浦 思ひきや小塩の浦のとまやにてね覚に秋の月おみんとは 篠原(しのはら) あたかの浦とたちばなの間なり、俊成卿のうたに、 世の中はうきふししげき篠原や旅にしあれは妹夢にみゆ 高浜(たかはま) 都だに跡たゆ計ふる雪にこしの高浜思ひこそやれ 白山(しらやま) 此山越前にかヽりたる大山也、東は越中、南は飛騨境といへり、山頂に子蛇が池とて有之、みどりの池ともいふ也、白山権現の御事、神社の部にくはしく書記せり、富士の雪はきゆる日定りたれど、白山の雪はきゆる日なし、常住絶頂には雪有之、古今別のうたに、みつね、 消果る時しなければ越路なる白山の名は雪にぞありける 籠(かご)の渡(わた)り 是白山の中宮にありといへり 徒にやすくも過ぬ山伏の籠の渡りも哀なるよや 印(しるし)の竿(さほ) 北国にはおしなべてある事なり、初雪の時、竿お立て、そのとしの雪のふかさお知也、 初雪に印の竿はたてしかどそこともみえぬ越のしら山