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北越雪譜
初編中
越後縮 縮は、越後の名産にして、普く世の知る処なれど、他国の人は、越後一国の産物とおもふめれど、さにあらず、我〈◯鈴木牧之〉住魚沼郡一郡にかぎれる産物也、他所に出るもあれど、僅にして其品魚沼には比しがたし、そも〳〵縮と唱ふるは、近来の事にて、むかしは此国にても布とのみいへり、布は紵にて織る物の総名なればなるべし、今も我があたりにて、老女など、今日は布お市にもてゆけなどやうにいひて、古言ものこれり、東鑑お案るに、建久三壬子の年、勅使帰洛の時、鎌倉殿より餞別の事おいへる条に、越布千端とあり、猶古きものにも見ゆべけれど、さのみは索ず、後のものには、室町殿の営中の事どもお記録せられたる伊勢家の書には、越後布といふ事あまた見えたり、さればむかしより、縮は此国の名産たりし事あきらけし、