[p.0354]
人国記
越後国 越後国之風俗、千人が九百人に負る事お嫌て、勝つ事お好み、仮初にも勇お嗜み、痛きと雲事おばかゆきと雲、途中にてけつまづきて倒れ、痛きと雲事お不雲而、意得たり、餓鬼目抔と、幼き者の育にも教る風俗に而、さしかヽりたる意地多く、後道のつまりお不考人多し、さるに因て、億する気の人寡く而、差かヽりたる分別のみにして、義理の心強く、主は被官お哀み、被官は主お頼み、意地暺麗なれども、物の理に至る人鮮ふ而、其執行之道に赴く人無之と見へたり、故に名人と名お呼人すくなかるべし、去程に勝事お好む時は、必我が非お不知る者なり、唯我善悪お知て、道理に従ふ志あらば、無双国の風俗なるべきお、猶残多き事なり、