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北越雪譜
二編一
雪の元日 凡日本国中に於て、第一雪の深き国は越後なりと、古昔も今も人のいふ事なり、しかれども越後に於も、最雪のふかきこと一丈二丈におよぶは、我〈◯鈴木牧之〉住魚沼郡なり、次に古志郡、次に頸城郡なり、其余の四郡は、雪のつもる事三郡に比すれば浅し、是お以論ずれば、我住魚沼郡は、日本第一に雪の深降所なり、〈◯中略〉さて我塩沢は、江戸お去こと僅に五十五里なり、直道(すぐみち)お量ばなほ近かるべし、雪なき時ならば、健足の人は四日ならば江戸にいたるべし、〈◯中略〉そも〳〵我里の元日は、野も山も田甫も里も、平一面の雪に埋り、春お知るべき庭前の梅柳の類も、去年雪の降ざる秋の末に、雪お厭て丸太など立て、縄縛に遇たるまヽ雪の中にありて、元日の春おしらず、されば人も三四月にいたらざれば梅花お不見、〈◯下略〉