[p.0651][p.0652]
西遊記続篇

隠戸の瀬戸〈◯中略〉 芸州の陸地お通りし時、其大道のつくりやうお見るに、他の国とは違ひて、多くは真直に作りたり、元来山国なれば直には付がたき道お、山に登り谷に下りて、無理に近道に作りなせり、余〈◯橘南谿〉かねて聞居しは日本の道路は、其始大かた行基菩薩の差図なりといふ事なりしが、いづれの国の道も、山あれば其裙お通りまはりて、谷おつたひ行き、なるたけは山坂お登りくだらず、平坦の所おかよふ様に付たるものなり、隻芸州に成てはまはり道なく、大方直に行やうに、山谷も厭はず、登り下りて道は付たり、他の国の道おひらける心とは、格別のやうにみゆれば、これかならず平相国清盛の改め給ひしか、又ちかき頃の福島正則か、何れ豪雄の気象の人のなす事なるべしとおもひしが、其後此隠戸の瀬戸の事お聞て、彼陸地も平相国の手なるべしと思ひし、