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人国記
長門国 長門国の風俗、毎物万事差掛りたる事無之也、されば人之音声も下音に而上拍子成事無而、人吾お頼むといへども、軽く請る事すくなく、思慮お而後に是お答、或亦人に事お談ずるにも、十之物七つ八つに而、差切たる事なき風俗にして、別而武士之風儀善にも非ず、悪にも非ず、我は人お頼、人は我お頼にし、たがひにもたれ合て毎物遠慮過て、大事に構るに、人の過ちある時、人是お誹るお以、如斯之意地より出る形儀也、さる程に諸芸お学ぶにも、一花勤る様なれども、気に引放たる意地無之故、怠惰之気頓而発して、中途に而差捨る人、百人に六七十人、如斯也、是皆勤る意地すくなく、独お慎之気弱きの故也、因滋武士之風俗善と難雲、若し此意地お発明而是お勤行する人あらば、国風の垢自ら去りて、名お呼ぶ程の人も可成也、無左士は随分利根也とも用て節に当るべきといわん哉、