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冠辞考
一阿
あさもよし〈木びと きぢ城のべの宮〉 万葉巻一に、〈大宝元年調淡海が歌〉朝毛吉(あさもよし)、木人乏母(きびとともしも)、亦打山(まそちやま)〈(中略)是までは紀伊の国にかヽれり〉巻二に、朝毛吉(あさもよし)、木上宮乎(きのべのみやお)、〈(中略)是は大和国の城戸なり〉こは浅葱(あさぎ)てふ色の事なるお、上に浅よといひて、葱とつヾけしならんか、〈◯中略〉さて毛与志(もよし)の毛と志はたヾ助辞のみ、与は呼出す辞也、〈◯中略〉 又或人、集中に、麻衣きればなつかし木の国のいもせの山にあさまけわぎもとよめると、又真間の娘子およめる歌に、ひたさ麻(お)お裳には織きてなど有お以て、紀の国よりよき麻裳お出せし故によめるかといへど、総て国つものお以て、冠辞とせしはなきよしは、上下にいふが如し、その上この冠辞は、紀伊のみにもあらず、山との城戸にもつヾけたれば、此説は違へり、