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紀伊国名所図会
三下海士郡
松江(○○)〈東松江中松江西松江あり、紀の川の湊口より西の方本の脇までの松原おいふ、旧名これお和田御前松(わだのみまへのまつ)といふ、また東湖(ひがしのみづうみ)とも和田浦ともいへり、◯中略〉夫此地の風色たるや、北は峨々たる青山、日景お含で金碧の色お醸し、南は渺々たる蒼海月明お浮べて、琉璃の光お磨けり、松江の松の常盤なる、冬の霜お凌ぎ、白浜の沙の鮮明なる夏の雪ともうたがへり、千維の都城は、雲外に聳へ、二子の島渚波際に浮む、遠く水天の窮まる際お望に、阿土(あと)の二国は一刷の翠黛たり、範蠡が舟常に維がず、子陵が釣もいとまなし、されば月に感あり、雲に興あり、沙にひろふては、松露の羹に酔おすヽめ、浜にとりては、あさり貝のあさからぬまで、風流俗子のわいだめなく、四時にかれぬ遊地なるべし、