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紀伊国名所図会
一下和歌山
吹上(ふきあげ)〈同浜、今府城の西南おいふ、また砂山とて、ちいさき岡のあるも、いにしへの遺跡なり、〉 此吹上の浜といふは、西南の風烈しきときは、白砂お高く吹上て、一夜のほどに一処に吹あつめて山おなし、又しばしが程に吹散して、もとの平地となり、こは常に風真砂おふき上る、これによりて吹上のはまとはいふなり、此地はむかしより月の名どころにして、文苑古詠かずかずあり、されば年歳累りて名所も廃して、蒼海三たび桑田となるのならひ、今は其俤さへも衛士の甍お連て、出る月も家より出て家に入の風情とはかはりぬ、