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太平記
十八
春宮還御事附一宮御息所事 其後波静り風止ければ、御息所〈◯尊良親王妃〉の御舟に、被乗つる水主甲斐々々敷船お漕寄て、淡路の武島(むしま)と雲所へ著奉り、此島の為体、回一里に足ぬ所にて、釣する海士の家ならでは、住人もなき島なれば、隙あばらなる葦の屋の、憂節滋き栖(すみか)に入進せたるに、〈◯中略〉一宮は唯御息所の今の世に坐さぬ事お歎思食ける処に、淡路の武島に、未生て御坐有と聞へければ、急御迎お被下、都へ帰上らせ給ふ、